小説 『 夜が来ると 』 フィオナマクファーレン 著
夫を亡くして、海辺の家にひとり暮らす75才のルースは、ある夜明け、家の中で大型の虎が動きまわる音と息遣いを感じた。
その日、ルースの元へ女性が訪ねてくる。
自治体がよこしたヘルパーだと名乗る女性フリーダが、ルースの生活と心に忍び込み、家に根を張り、操り、奪っていく物語。
がつがつと食べつくす猫たちを見守った。この食べ方はどこか聖書を思い出させると感じた。 疫病に似ているのだ。
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身に余る欲求不満を感じたときだけ使える、別の言語を知っていればよかったとルースは思う。
あまりにも掃除が行き届いた家は、自分に言わせれば、殺菌力のある猫の舌ですみずみまで舐めまわされたかのようで、かえって不快感があった。
ぐいぐいと引き込まれる。
ルースの人格や、生い立ちを丁寧に描写することで、
彼女はどのように受け取るか、どこで不安に思うか、度胸、プライドがどうでるか、
読み進めながら少し見当がつく。
なので、彼女を絡め取るために張られた罠に気付いてしまうのが怖い。
ルースは罠に落ちるだろう、落ちた、この罠にもハマるだろう、落ちた、、
と、一つずつドロ沼に埋もれていくのを見せられる。
妄想ではなく痴呆。
ハリーが亡くなって以来、ルースは何かをしたいと思うことがほとんどなくなっていた。フリーダは欲する人だった。床をきれいにしたいし、ウエストを細くしたいし、髪の色もしょっちゅう変えたい。フリーダはみずからの欲望で世界を満たしていた。ルースはそれが羨ましかった。あんなふうでなぜいけない?
どこで転換したんだろうと読み返したときに、この一文でハッとした。
密室のなかで相手への依存を深めていくとき、欲望をまっすぐ見せられると、安心するんだね。
痴呆が一気に進む。
そしてルースは安らかに騙されていく。
あまりにも安らか、彼女は自分で選択したと、自分で感じている。
詐欺に合わないためには、ある程度騙しのテクを知識として知っておくべきだけど、
これは、騙された高齢の母よりも、息子たちの気持ちになってしまう。
振り返ると、守れたかもしれない、でも、やっぱり彼らがその都度選んだことは最善だったと思う。
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